学園マーメイド


『あ、蒼乃?』
「ごめんね、電話出るの遅れた」
『はは、メールだと思ったんでしょ』
「あー、そう」



苦い声を出すと電話の向こう側で笑う声が聞こえた。
どうやらお見通しのようだ。



「電話どした?」
『んぅ、あのさ。俺ね、昨日蒼乃から相談されて、すっげ嬉しかったの。でも、答えられなかったでしょ。本当に本当に嬉しかったのに、なんにも言えなかった』



そんなことない、と言う前に陸嵩の声が続く。



『でも思ったんだ。蒼乃が帰った後に、親父たちが帰ってきてさ、雪が凄かったとか、じいちゃんがどうだとか、本当にどうでもいい事とか話してさ。でも、一日会ってなかっただけなのに、それが凄い楽しくて、ああ、いいなあって素直に思った。そういうような事って、家族だから思えることなんだと思う。今までは蒼乃が家族だと思った人と一緒にいなかったから、そんな気持ちになったことないでしょ?』
「……そうだね」
『……俺はね、蒼乃。蒼乃にそういう他愛のないことに幸せを感じて欲しい。ううん、感じなきゃいけない。蒼乃、家族ってね、すぐになれる物じゃないよ。俺が穂波家に慣れたのにも時間はかかったし、自分の中で消化するのは大変だった。だから、蒼乃だってゆっくりでいいんだよ。答えなんて今すぐ出さなくていい、……蒼乃がお父さんをどう思うかだよ。“家族になって欲しい”って言われて、混乱したかもしれない。でも、正直にお父さんとどうなりたい?どうしたい?……蒼乃が決めていいんだよ。怖くない、ゆっくり決めていいんだよ』



私が、どうしたいのか?
陸嵩の真剣な声色が耳から身体を通って脳内を回転させる。
どうすればいいのか、じゃなくて、どうしたいのか。
それは考えたこともなかった。



『……ゆっくりで、いいから。また何かあったら電話してよ。……ね?』
「……あたしが決めて、いいのかな」
『もちろん。誰でもない蒼乃が決めなきゃいけないんだよ』



決めなきゃいけない。 




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