学園マーメイド
降りると、潮風が髪を巻きあげた。
芝生がかさかさと音を奏で、私を早く行けと急かして聞こえる。
足は自然と速くなり、道なりに進んでいくとぽつん、とたたずむお墓と大きな背中が見え始める。
歩くスピードが遅くなり、彼の背中で止まる。
「……沙織さんから、電話もらったよ」
後ろに来たのを感づいたのだろう、川上が口を開く。
慈しむように墓石を撫でると、立ち上がりおもむろにこちらを向いた。
優しく、でも切ない笑顔を張りつけた川上がそこにいた。
――――『でも、正直にお父さんとどうなりたい?どうしたい?』
どうしたい?
「……正直、いきなり父親だと言われて、家族にならないかって言われて困惑したし、今更なにって思いました。悩んだし、それを放棄しようとも考えた。でも、言われたんです。……あなたとどうなりたいのかって」
「……うん」
彼は不安そうに眉を寄せた。
考えるまでもなかったんだ。
この人とどうなりたいのか、どうしたいのか。
だって、私は求めていたから。
ずっとずっと、心の奥底であきらめて、でも諦めきれずにいたのだから。
兄からでもなく、陸嵩からでもなく。
この人でなければ与えられないものを、ずっと求めてきた。
「あたしは……、あなたと家族になりたい」
この人からの愛を、ずっと。
川上は何を言われたのか分からない、といったような顔をしてこちらをみた。
目を丸くして口を鯉のようにぱくぱくと開けている。