学園マーメイド
「……い、ま。家族になりたいって言った……、よな」
「言いました」
信じられない、という顔を暫く続けた川上は次の瞬間。
「――――っ」
一筋の涙を零した。
それはそれは、静かな涙だった。
川上は片手で口元を押さえて声を漏らさないようにと俯いた。
苦しかったのだろう。
私はこの人とどうなりたいと思う以前に、この人の苦しみや悲しみを考えたことがあっただろうか。
きっと私と同じくらい……、いやそれ以上苦しかったのかもしれない。
私はゆっくりと彼に近づいて口を塞いでないほうの手を取った。
「ごめ……っ、あー……、嬉しいっ、けど……ごめん」
「…………」
「オッケー貰えるなんて思ってなかったんだ。……こんな父親なんて不甲斐ないだけだし、絶対断られるって。だから、余計に……。あーっ、夢じゃないよ、な」
零れ落ちる涙は川上の頬を何度も伝っては芝に落ちる。
ずずっと鼻水をすする音を出す。
「……一つ……、一つだけ聞いてもいいですか?」
握った手に力を込める。
「どうして麻薬なんかに手をだしたんですか?」
つつ、ともう一度頬に涙が伝うと、川上は大きく瞳を開けた。
希望を与えてくれた人が麻薬をやったと聞いて、私は酷く絶望した。
水泳だけじゃなかったのだ、逃げ道さえ水泳に逃げ込めなかったのだと、悔しかったのをいまでも覚えている。
しかし講師として出会って、彼の瞳はあのころのままだということに気づいた。
だからこそ知りたかった。