学園マーメイド
「……知ってて当然か」
落胆した声とともに、川上は私の手を握り返した。
「言い訳になるだろうけど……。藤乃とお前が死んだって聞いて正気でいられなかったんだよ。愛すべき水泳でさえ、愛せなくなってた。……麻薬に逃げるしかなった。頼るしかなった」
「…………」
「もちろん、もう一度手を出す気はないよ。藤乃にも誓ったし、蒼乃にだって誓える。……だけど、あの時はあれがなくちゃ生きていけなかった。現実に戻るのがすごく怖かったんだ。お前たちがいない現実に戻るのがとても」
当時を思い出したのか、瞳をぎゅっと閉じて息を吸う。
人間は誰だって弱い。
私だって強くないし、脆くてきっと今だって陸嵩や雪兎や梅沢にささえてもらって立っている。
……一人ぼっち、この人も必死に生きようとしていたんだ。
私と同じように苦しんで悲しんで、それでも生きようとしていたんだ。
表面上の“川上蒼明”を知ったつもりでいた。
水泳をするにあたっての尊敬する人で、憧れで。
だけど、この人の全てを知ったわけじゃなかった。
何も知らないまま、毛嫌いしていた自分がとても恥ずかしく、不甲斐ない。
胸のあたりがぎゅっと、締め付けられて喉元がぎゅぎゅ、と詰まる。
それは徐々に上にあがってくると、瞳から暖かい液体が流れ出した。
「……蒼乃」
川上のはっとするような声が聞こえたが、遅かった。
液体が、ぽたり、と芝に落ちた瞬間、それを合図に瞳からどっとあふれ出した。
「っ……っ」
声にならない思い。
特別親が欲しかったわけじゃない。
だけど、やっぱり欲しかったんだ“無償の愛が”。