学園マーメイド


川上がゆっくりと腕を広げ、広い胸板で私を抱きしめた。



「大きくなったな。ほんと、大きくなったよ。……小さい頃尾神の家に内緒で、沙織さんに蒼乃を見せてもらったんだ。小学生くらいだったかな。直接じゃなくて遠くから見てただけだったんだけどね」



はは、とから笑いをする。
包まれた腕はとても温かい。



「蒼乃の名前ね、藤乃が決めたんだけどさ。俺の名前の蒼明の蒼と藤乃の乃をとって、蒼乃、なんだよ」
「……っぅ」



ああ、愛ってこんなに暖かいんだ。
胸の奥が熱い。苦しい。でも、嬉しい。
抱きしめてくれてる身体全部から感じる愛しい思い。
言葉にしてくれなくても分かる。
川上……、いやお父さんの気持ち。
本当の親じゃないと義父から聞かされた時、ショックは受けなかった。
ただ想像した。どんな人だったんだろうか、どんな声で私の名前を呼んでくれたんだろうか。
会えないと思っていながらも、夢を膨らませていた時期はあった。
……会えたね、やっと。



「話したいこといっぱいあるんだ、蒼乃。いっぱい、いっぱいあるんだよ。……たとえばね、俺も水泳が大好きで得意なんだけど、藤乃、母さんもね実は水泳やってたんだ。けっこう上手だったな」



水なの中にいることで安心する理由が分かった。
二人が愛してくれた場所だから安心してたんだ。
なんだ、とても単純で簡単な理由。



「蒼乃の話もいっぱい聞かせてよ、ね」
「……っうん」




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