学園マーメイド
始業式が終わり、授業もなく、プールサイドへと足を運んだ。
久しぶりの塩素の香りと静かな波音。
ここだけは決して私を裏切らない場所。
「お、早いね」
靴下を脱いで足だけプールに突っ込むと川上が入って来た(お父さんと呼ぶのは照れくさい)。
私たちはあの告白から毎日会っていたせいか、ほんの少しの蟠りはあるが気にならないほどに打ち解けていた。
「塩素の匂い好き」
ふっと笑って言うと、川上が近くまで寄ってきてしゃがむ。
「ああ、分かる分かる」
川上も笑う。
水中で足をバタつかせるとばしゃばしょと陽気な音を出した。
飛び込みたいが制服だ。
だけど水着に着替えるのも面倒くさい(矛盾している)。
川上は立ち上がって腕を回した。
「友達に話した?」
「……まだ」
遠慮がちに聞かれた質問に短く答える。
ぽん、と大きな手が頭に乗せられる。
「時間はまだちょっとあるし。決心したら言えばいい。……俺は蒼乃の気持ちも尊重したいし、でも伝える事だって大事だ」
ぐしゃり、と髪を撫でられる。
こういう時この人を父親だと実感する。
いや、今までだって考えれば父親らしき行動もあったのかもしれない。
溺れかけた時や、殴られたのが友人だと継げた時がそうだ。
あの時の顔は忘れられない。