学園マーメイド
「……なるべく早く言うよ」
「そうだな。そっちの方が蒼乃も友達も心の準備ってのができる」
もっともな返答にコクリ、と頷く。
川上から告げられた提案。
それはアメリカ留学をすると言うことだった。
『俺の本拠地も向こうだ。それに、アメリカで各国から若い選手を集めて指導する組織があって、設備も完璧で成長盛りの蒼乃にはもってこいの場所だと思ってる』
聞いた瞬間、心が躍った。
私だって水泳選手だ。ただ泳いでいれば満足するような人間じゃない。
アメリカでの練習風景を思い浮かべるだけで、全身の毛が逆立った。
『……行きたい』
それが正直な私の答えだった。
川上からのオファーであったなら、学園側はあっさりと承諾するだろう。
冷静な自分であっても答えは同じだったろう。
出来るなら行って世界に対する自分の実力を知りたい。
強くなりたい。
『蒼乃ならそう言うと思った。……2月の半ばぐらいに各国からそれぞれ収集をかけて、それから正式に登録される』
アメリカに行く、それは私の中では絶対となっていた。
願ってもいないチャンスだ。これを逃す愚か者ではない。
だけど、次に頭に浮かんだのは陸嵩。
そして雪兎や梅沢。彼らだった。
私は彼を、陸嵩をここに残してアメリカに行くということを選んだ。
しかもいとも簡単にだ。
罪悪感はなかった。だけど、告げたときの彼の顔を想像するとどうしても胸の奥が痛むのだった。
どんなに口を閉じていても行くという事実は変わらない。
変わらないのだ。