学園マーメイド



「……どっきり?」
「違うよ」



か細い声は小さいけどはっきりと耳に届く。



「いつ……、いつ行くの?」
「2月の中期」



心臓が締め付けられているのを感じながら、平然を装おうとしている自分に吐き気がする。
だけど、変えられない。
陸嵩がなにを言おうとも、私は変えない。
陸嵩に出会う前から私の生きる場所は決まっていたから。



「そっか」



だが、今目の前にいる陸嵩は私の想像と違った。
――――笑顔だった。
嬉しそうに笑ったのだ。
びっくりして今度は此方が目を丸くしてしまう。



「凄いよ、アメリカ行けるなんて」
「え、ああ」
「そっかぁ、アメリカかぁ。川上さん……、お父さんと行くの?」
「うん」
「じゃあ安心だね。良かったね」



次々と陸嵩の口から出てくる言葉たちに、私は呆然と答えている。
夢のような感覚に近かった。
どれだけ傷つくだろうと想像していた脳内は、彼のこの声を聞いて、笑顔を見て完璧にフリーズしてしまったらしい。

……あれ、なんか変だ。



「……あー、俺、今日昼飯いいや。先、教室行くよ」



気づいてた、気づかなかった?
もちろん、気づいていた。
彼の声が震えていた事も、笑った顔が今にも崩れそうだったことも気づいていた。
フリーズした頭だったけどそれは確実に分かった。
有無を言わせないまま、去っていった彼の背中をただ見つめることしか出来なかった。




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