学園マーメイド
バンビはにこり、と笑いかけ手を伸ばしてきた。
「あんた凄いよ!この学校内で俺の隣並んだの、お前が初めて」
勝った、いや負けたと言うのに彼はとても嬉しそうな顔を見せた。
訳も分からずにバンビの顔を見つめる私は、その伸ばされた手に視線を移し、砂を握っていない方の手で握った。
どちらの熱か分からないが、手の平はとても熱く、やんわりと私の体を持ち上げた。
「……は、……はっ……」
なんて様だ。
起き上がれたはいいけど、足が安定なく震えている。
味わったことのない“恐怖”と“絶望”、それに加えて全力疾走。
精神的にも体力的にも、私はまだまだ未熟なんだと言う事を思い知らされたようだった。
視線を落としたままでいると、バンビの声が上から降ってくる。
「……勝負的には俺が勝ったけど、その他の面で俺は完敗。だから、あんたの勝ち」
勝ち、その言葉が、すっと体の中に浸透した。
それは“水泳を続けられる”と同じ意味を指し、歓喜のあまり心の内が震えた。
たった一つの生きる場所、目的、…私の全てからの追放が取り消しになる。
まだ格好悪いくらい足の震えは止まらない、いや、足だけではない体中の震えは止まらないが、私にとっての真実はそれだけでいい。
地面に落とした目を上にあげると、どこか嬉しそうなバンビの顔。
「え、と……なんて言っていいか分からないんだけど……、とりあえずおめでとう」
照れたバンビが右手を差し出す。
「……あ……、りがと」
短パンで手を払ってから手を握る。
周りの人間は呆然とその光景を見ていたのだろう、握手をした途端、静かにざわめきだす。