学園マーメイド
「だけど陸嵩はあたしの心の全体を占めてるよ」
「……全体?」
「そ。上手く言えないけど、……ここにいるあたしは陸嵩と出会わなければ存在しないんだ」
「……それは」
「陸嵩と出会って、友達を知ったよ。陸嵩と出会って、他愛のない事が楽しいと思えることを知ったよ。陸嵩と出会って、兄さんの死を認めることができた、雪ちゃんと和解できた、梅沢くんに出会えた、光に立ち向かえた」
「…………」
「……恋を知ったよ」
人と触れ合うことの暖かさ、同時に強くなれること。
人を愛することで、自分も幸せになれること。
全部、全部、教えてくれたのは陸嵩だった。
あなたが教えてくれたことは心に吸収されて、いつのまにかその感情が当たり前に感じるようになった。
ね、あなたが全部心にいる。
オレンジ色に染まる空に目を移し、息を吸って吐く。
「心に陸嵩がいるから、だから、頑張れる。……向こうに行っても、陸嵩を感じられる」
強がりでもなんでもない。
そう思える心を陸嵩、君がくれたんだよ。
初めて知らないものに触れて、勇気を出して近付いて。
そして恋をして、人を愛する喜びを知って。
ああ、そう人魚姫みたいに。
「……ねえ、陸嵩。あたし学園でマーメイドって呼ばれてるでしょう?」
馬鹿馬鹿しい名前だって思った。
そんな綺麗な競技じゃないし、その名前を誇りに思ったこともない。
今はそんな名称さえ愛おしい。