学園マーメイド
「あたしがマーメイドなら、陸嵩に会うために足を貰ったんだよ」
らしくないけど、運命だって思いたい。
「陸嵩に会いたくて足を貰ったんだ」
ああ、じゃあ海の魔女役は兄さんかな?
きっと兄さんが陸嵩に会わせてくれる為に、足をくれたんだ。
「……っ」
陸嵩がばっと顔をあげ、立ち上がった。
彼の頬は涙で濡れてオレンジ色に染まっていた。
私が陸嵩と向き合い、精一杯の顔で笑って見せると彼は両腕を広げて私を抱きしめた。
それは力強い抱擁だった。
「…………っ」
「陸嵩」
苦しそうに涙を堪える詰まった声は耳元に響く。
腕をそっと彼の背中に回す。
どのくらいここにいたのだろう、彼の背中はとても冷たい。
いや、体全部が冷たい。
「……蒼乃がマーメイドだから、……っ俺は、王子様?」
涙に詰まりながら発せられた言葉に、ふっと笑ってしまう。
久々に感じる陸嵩だ。
陸嵩の背中を片手で摩り、もう片方で髪の毛を撫でる。
「そうだね。陸嵩が王子様だ」
なんだかしっくりこないけど。
それでも私の王子様は陸嵩しか考えられないから、いいや。
体を離し、制服の袖で陸嵩の涙を拭ってやる。
だけどすぐに陸嵩が私の体を引き寄せ、再び抱きしめるから完璧にふき取ってやれない。
どうやら王子様は離れるのが嫌らしい。
それから何度か体を離そうとしたり、そろそろ中に入ろうと促しても陸嵩は私を離さなかった。