学園マーメイド
ぎゅ、っと体を抱いて。
熱を逃がさないように。ぬくもりを忘れないように。
長い長い抱擁をしていた。
やっと体が離れると、どことなく彼の顔がすっきりしたように見えた。
私もなんだかすっきりした。
暫く口を噤み、二人順々に暗くなっていく空を見つめた。
片手はフェンスを握り、片手は陸嵩の手を握る。
“後夜祭が始まります、生徒の皆さんは温かい格好をしてグラウンドに集合してください”と言う校内放送が入ったから6時を回ったのだろう。
それを聞いてもお互いピクリとも動かないあたり、後夜祭には参加しないつもりなのだろう。
ふっと吐いた息が白く染まったって消えたのを見て陸嵩が口を開いた。
「ねえ、蒼乃。人魚姫の最後は、泡になって消えちゃうんだ」
澄んだ瞳でじっと、見据えらたまま発せられた声ははっきりしていた。
そうだ、うろ覚えだけど、確か王子様を殺せないから自分が泡になる話だった。
私は陸嵩の言葉に苦笑する。
「泡になるのは嫌だなぁ」
「うん、だから、ずっと俺が守るよ。遠く離れても絶対守るって約束する」
「……期待してるよ、王子様」
冗談交じりに笑うと、彼もいつも通りケラケラと笑った。
「……だから俺は日本で、蒼乃はアメリカで。お互い頑張ろう」
ああ、聞きたかった言葉だ。
じんッ、と早いスピードで体を這うその言葉は、今の私にはこれ異常ないくらいの力になる。