学園マーメイド
中にはきっと元水泳部の人間もいるのだろう。
そう考えると自分の勝利が心苦しい気がしたが、やはり私の居場所は水泳しかないのだ、と心の奥で唱える。
「陸嵩!どう言う事だよ」
観衆の中から大声を張り上げた人間がいた。
この声には身に覚えがある…、元水泳部の人間だ。
途端に心臓を鷲掴みにされたような感覚がして、胸元をきつく押さえた。
バンビも突然の大声に驚いたようで目を丸くしている。
「…あ」
「お前の勝ちだろ?なんで園田が勝った事になってんだよ!」
「どう考えても俺の負けだよ」
「はあ?意味わかんねえよ!…お前だけが希望だったのに」
どうしよう、どうしよう。
謝りたい、でも此処で謝ったら何に対する謝罪なのか分からない。
自分の手の平が脈を打つのを感じながら、私はゆっくりと二人に背を向けた。
何を言われようが、あの場所から逃げることだけは絶対にしない。
どんな障害物が現れようとそれを突破して、必ずあの場所を守ってみせる。
そう、私の生きる理由はあそこに存在しているのだから。
静かに深呼吸をして、言い争っている声を聞きながらグラウンドを後にした。
そしてその日は、水泳の練習も、物理の課題をする事もないまま、ぐっすりと眠りについた。