学園マーメイド
“好き”?バンビが、私を?心の中で小さく自分を嘲笑ってみると、あり得ない、ともう一人の自分が首を振った。
生まれてこのかた、人を好きになったことも好きになれられた事もない。
人が好きだと言う感情が分からない。
こんな時光ならどうするのだろう。
恋多き乙女達なら一体どんな言葉が口から出るのだろう。
混乱してせわしなく上下左右に動く瞳を見て、バンビは柔らかく笑った。
「ごめん、ごめん。困らせるつもりじゃなかったんだ」
いや、十分困っている、と頭では思っていても言葉に出でこない。
「ただ、そう思った。マーメイド、…いや蒼乃が好きだ」
“好き”、初めて言われた言葉に体中に力が入る。
一体何?
“好き”ってどんなことを言うの?
おろおろと動揺を隠せない私に、バンビは腕から手を離し、今度は私の掌自体を改めて握った。
「まだ付き合うとか考えてくれなくて良いんだ。あ、ねえ!俺ら今日から友達として付き合っていこうよ」
思いついたように明るい顔をして笑うバンビに、会った時の違和感はなかった。
キラキラとまるで輝いているように見えて、初めて会った時のバンビがゆっくりと薄れていくのを感じた。
“男友達”と言う新しい響き。
いいのか悪いのかも分からない。
でも、この胸騒ぎに似た気持ちを信じてみたいと思った。
「うん、よろしくバンビ」
握られた手にぎゅ、と力をつけて返す。
「…ん。あのさ、バンビはやめようか。俺も蒼乃って呼ぶし、蒼乃も俺の事名前で呼んでよ」
それもそうだ。
友達と言うのだからそれなりに友達らしくしなくては。
そう思って名前を呼ぼうとした、が。
「……下の名前ってなんだっけ?」
苦笑いに似た笑顔を返ってきた。