学園マーメイド
「メールの事はごめん。だけど、本当に気にしないでいいよ。気にされたこっちが困るから」
「うん、そうしたいけど。気にしちゃうんだよね」
「なんで?」
「それは、蒼乃が俺の好きな子だからだよ」
その言葉に歩んでいた足が止まる。
まただ、“好き”。この感情の意味を知らない。
どうやって返せばいいのか分からない。
恋愛感情に見えません、でもそもそも恋愛感情とやらも知らない。
昨日と同様、返し方が見つからず瞳がそれと連なるように左右上下に揺れる。
それを見た陸嵩も驚いた顔をする。
「あ、ごめん!その…、えっと…、友達からって言う言葉は嘘じゃなくて…。……ごめん、調子のりすぎちゃったな」
私が何に対して動揺しているか分かったらしい、彼も彼で慌しく弁解を始めた。
調子に乗りすぎた、と言うものではなく、こちらとしてはただ吃驚した、の一言だった。
大丈夫と言う一言でも送ってやれば良かったのだろうか、でもそんな余裕すらない。
初めて浴びせられる言葉に慣れる事はなかった。
「その、…大丈夫」
そう呟いて少々動揺しながらも、再び歩き始める。
初めて言われる言葉に戸惑うしかできない惑う自分。
今までは何も考えなかった、考える暇がないほど水泳一筋だった。
友情も、愛情も、そう全て考えなくていいくらい。
家族に対しても同じようなこと。
ましてや恋愛なんてもっての他。そんな機会はいくつもなかった。
「不快にさせた…、よな」
「あ、違うよ。吃驚しただけだから」
やっと、やっとだ。
冷静な感情が戻り、陸嵩にかける言葉が見つかりだす。
情けない。たった二言で思考回路が壊れてしまうなんて。
私の言葉に陸嵩の顔がぱあ、っと明るくなる。