学園マーメイド
顔からは想像もつかない光の変態トークにギリギリついていきながら、本にしおりを挟んで閉じた。
光はバスケ名門中学からここに入学してすぐ、2年生のイケメン先輩に恋に落ちたそうだ。
寮の部屋が隣と言うだけあって、仲良くなってからは毎晩のようにその人の話を聞かされていた。
いや、現在進行形で聞かされているが正しい。
名前は…、忘れた。
「とにかく!あたしが言いたいのは、合宿に行くと蒼乃に会えなくなるから、ちゃんとラ
ンチ誘ってねって事」
ああ、私が光の好きなところ。
本人は自覚がないのだろうけど、いつもどこかで人の事を気遣って優しい言葉をくれる。
入学してから4ヶ月、光の言動で救われた事がたくさんある。
微笑んだその顔に微笑を返すと、タイミングよくチャイムが鳴った。
「蒼乃。今日は、これで授業終わり?」
席を立ち上がり、不安そうに聞く光の顔が見えた。
私はきっと分かってしまうと思うけど、無理に笑顔を作ってみせた。
「うん。これから部室に直行だよ」
「…そっか、頑張ってね」
「光もね。次、数学でしょ?予習しないと田中先生怖いよ」
「ふん。あたしの色気で先生なんて粉砕してあげるわ」
粉々になって風に飛ばされていく数学教師を思い浮かべて、つい笑ってしまった。
それを見て安心した様に光が手を振った。
また夜に、と交わしてカフェテラスの右と左の出口に別々に進んでテラスを後にした。
彼女が不安そうな顔をする理由なんて一つしかない。
“水泳部室”と書かれたドアに張り付いたプレートを眺めて小さな溜息。
ドアノブを回して部屋に入るとシン、とした空間が広がっていた。
誰もいないのは当たり前だ、水泳部部員は私一人だ。