学園マーメイド
「えー、荷物置いてあるし」
「すぐ退かすから」
「んー、もう眠たいし」
「5分もかからない」
「…そんなおかたい事言うなって。大丈夫大丈夫、変な気はおこさないし、ただ寝るだけだから、な?」
15年と言うまだ短い人生の間、人のペースに流されず生きてきた自分だったが、この状況はまさに人に流されていると言ってもいいだろう。
だが不思議と嫌な気持ちにならなかった。
もう気付いてた。
瞳の奥の真剣さも、声も言葉も魔法の様に優しいのも、暖かさも、雰囲気も。
この人は“兄”に似ている。
振りほどけない理由はそれだ。
「…兄さん」
「ん?なに?」
「分かった。4時起きね」
「あと3時間しか寝れないじゃん…、鬼っ!」
「だったら床で寝て」
それっきり黙りこくった陸嵩は、横にずれて一人分のスペースを作った。
生暖かさを感じるその場所に潜りこむ。
「おやすみ、蒼乃」
優しい声がする。
「…おやすみ……、陸嵩」
お互い背中合わせで寝転んでいるから、寝たのかも分からない。
一人分のベッドの広さしかないため背中と背中は密着していた。
その密着した背中から伝わる人間の暖かさ。
人の…、熱。
「ありがとう」
何に対しての感謝なのか、自分でも分からなかった。
だけど口から零れたそれは確かに本心だったんだ。
それから瞳を閉じると意識は闇の中に落ちていった。