学園マーメイド


時は流れ、1学期最終日。
平穏な日々を送っていると言いたいが実はそうでもない。
あの日(もちろん陸嵩と添い寝の日)から彼は毎晩部屋に尋ねてくるようになった。
それを許している自分も自分だが、慣れとは恐ろしいものだ。


「今日こそ一緒に登校しようと思ってさ、玄関で待ち伏せしてたのに。……神崎さんが、さっき窓から学校に向かうの見たよー、って。酷いよなあ」


彼のペースに飲まれてから、ずっとそのペースに流れている。
それでもいいと思えてしまうのは“兄”と似ているからなのか、彼の人望なのか分からない。

最近では陸嵩と行動する日が多くなり、光は光で夏季大会の練習が忙しくなかなか会う事ができないんだとか。
レギュラーがとれたらしく、彼女も頑張っているようだ。


「…て、ちょっと聞いてる?」
「あー、うん。ごめんごめん」
「うわ!でたよ、蒼乃の棒読み謝罪」


眉を吊り上げたかと思うと今度はケラケラと笑い出す。
コロコロと表情が変わり、私としてはそっちの方が十分面白い。


「そろっとあがるよ」
「ん。じゃあ、教室まで一緒!これ絶対な」


ビシっ、と効果音でもつきそうなくらい人差し指をこちらに向けられる。


「分かったよ」


ふ、と笑いを零しもう一度だけ潜る。
名残惜しいが時間がきてしまったなら仕方ない。
地上に上がるときにずしりとくる重力と、重たくなる体が嫌いだ。
それでもあがらなくては。

私は魚でも水でもない、だたの――、人間だ。




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