学園マーメイド


一学期の締めをする終業式も終わり、私は体育教官室へと来ていた。


「夏季大会の種目だけど、…とりあえずリレーは出来ないし、お前の得意とするのを2種目選出してくれ」
「はい」
「まあ、夏季大会と言ってもでかい大会なわけじゃないから。本番は12月にある大会だ。それまでに最高のコンディションでいられるよう、日々の努力!いいな」
「はい、コーチ」


どうしてこんなにも教師が滞在する部屋は涼しいのだろうか。
外は蝉がうるさく泣き叫び、太陽の熱が容赦なく照りつけるのに。
まあ、クーラーと扇風機がこう完備されていたら涼しいのも当たり前か。
コーチの大会の説明を聞きながらそんな事を思っていた。


「失礼しました」


体育教官室をでた途端、むわっとした空気に包まれる。
体育教官室は体育館の中にあり、体育館こそ暑い。
窓が全開しているとはいえ、普通の教室に比べたら何倍も大きい。
それに比例して窓も大きいが風がこなけりゃ意味がない。
結果、こんなにむわっとして、そして空気を吸いたい気持ちをそぎ落としていく。

だがそんな誰もいない体育館で響くボールの音。
音のするほうに目を向けると、一人の男が今まさにシュートを決めるためジャンプをしようとしている所だった。
そのジャンプ、普通がどうなのかは知らないが…、


「…高い…!」


そう高い。
声をあげてしまうほど高いジャンプと綺麗なフォーム。
宙にどれくらいの時間浮いているのか分からないが、一瞬時間が止まったようにさえ感じてしまった。
“見惚れる”と言う言葉はこういう時に使うのだろう。

男はシュートを決め、地面に着地すると大きく息を吐いて額の汗をリストバンドで拭った。
そして地面に転がったボールを片手で引き寄せ、腕に抱えるとおもむろに此方を見た。
綺麗な切れ長の瞳にヘアバンドで上げた髪の毛と汗、ワイシャツと制服。


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