学園マーメイド


「あ、おい!蒼乃!!」


慌てた声が後ろから降ってくる。
足音からして追いかけてきている事は間違いない。
嫌だ嫌だ嫌だ、捕まりたくない。
必死で足を動かし、腕を振る。
ああ、体が重たい。水の中ならもっと早く、もっと遠くいけるのに。



何処まで走ったのだろうか。
無我夢中で走り続けたせいか、距離の感覚がなかった。
頭上に青空が見える、その時点で屋上に来ている事が分かった。
しかも北校舎ではなく南校舎の屋上だ。反対側に北校舎のテラスが見える。
だがここまで来たとしても逃げられないことを知っている。


「……ぜぇ、…は…っ、は」



―――昔から鬼ごっこは捕まるまで追い掛け回された。



「…くそっ、速いんだよ!」


がちゃんと乱暴に開けられた扉から入ってきたのは、橋本雪兎。
息をきらし汗だくになりながらゆっくりと此方に向かってくる。



――――『嘘だって言えよ!お願いだから、お願い!』



記憶が、封じ込めた記憶が悲鳴をあげる。
会いたくなかった。
私と同じ過去の記憶を共有する人間となんて、…会いたくなかった。


「蒼乃。…ずっと話したい事があったんだ、ずっ」
「それ以上何も言わないで!」


彼の発する言葉に恐怖を抱いた私の口からは、普段出すことのない怒鳴り声が出た。
ビリっと外の空気が固まる。
私の瞳は彼の瞳を捉えたまま動かない。



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