学園マーメイド
「……蒼乃?」
陸嵩の声が耳から全身に伝う。
ゆっくりと心臓へ落ち、そこがぽっと火がついたように暖かくなる。
そうほんの小さな火。
風が吹いたらあっという間に消えてしまいそうな小さな火。
だけどそれだけでも心の奥にある氷は溶かされて、やがて溶けて出来た水溜りも水蒸気に変わる。
まるで蟠りが消えていくような、そんな感覚に近い。
魔法のような、心地良い暖かさ。
「――ああ、これかぁ」
納得した声に益々陸嵩は不思議そうな顔をして上から覗き込むようにしてみる。
私はまだ力の入らない体を起こし、陸嵩を正面から見つめた。
「分かったよ、陸嵩」
微笑みながら言うと彼は、なにがどうした、と少し焦って聞き返した。
「前に言ってくれたことあったよね。具合がおかしくなった時にさ、寂しいとか心細くないかって」
「あー、うん。言ったね」
その時は独りの方がずっとましだって思っていた。
否、数秒前までそう思っていたんだ。
弱い自分を見せるのは嫌だったし、自分が弱いと思ってしまうこともしたくはなかった。
意地ではなく、ただ本当に小さなプライドがそれを許さなかったんだ。
だけど、そんなの本当にくだらないことだった。
「独りの方がいいって、そう言ったし、さっきまでそう思ってた。だから正直、陸嵩の存在が邪魔だって何度も思った」
「……はは、うん」
彼は少しショックを受けたように(まあ当たり前か)俯いた。
「だけど違ったよ」
「違う?」
違う、と言う言葉に俯いた顔が上がる。