学園マーメイド
「……なんか蒼乃やつれた?」
夏休みに入って1週間。
夜、久々に光が部屋へと遊びに来ていた。
いつものようにマグカップにお茶と、机にお菓子。
顔を覗きこんできた光の声色は心配そうだった。
そりゃあやつれもするさ、と口に出そうなのを堪えてお茶を飲む。
「そうかな」
「あたしも練習けっこうきついけど…、あんたはちょっと疲労が目に見えてる感じ」
練習で疲れるなんてことはない。
あそこだけが生きている理由なのだから、24時間泳いでいたって“疲れた”と心の底から感じることはない。
何をしていてもあの場所以外、私を癒せる所なんて存在しない。
言ったところで分かってくれる人なんて少ないだろうが。
だが問題はそこではない。
「うーん、大丈夫。夏休みの課題とかやってるせいかも」
肩をすぼめて笑ってみる。
そんなのは大嘘だ。
課題なんて1週間入って何も手をつけていない。
問題はあの画鋲の日から始まっていた。
画鋲だけで気が済むのだろう、と甘く見積もっていた自分が浅はかだった。
ここ1週間毎日、必ずといっていいほど事が起こっている。
水泳部部室の前に“馬鹿”、“アホ”と張り紙が張られていたり、下駄箱に脅迫まがいの紙が入れられてたり、画鋲までは良かったものの靴自体なくなって、探すとゴミ箱にあったり、……その他もろもろ。
流石の私でも毎回毎回それに対処できるだけの精神は持ち合わせていない。
「うわっ!課題やってんのぉ?…ねえ、出来たら写させてよぉ」
キラリ、と可愛い笑顔を見せる。
それをはいはい、と軽く流しいつもの様にくだらない話に花を咲かせた。