学園マーメイド

頭の隅のほうでは事が気がかりで仕方がなかったが、考えたところで行動にでることもできない。
気が済むまでやらせたらいいのだろうか、エスカレートして凄い事態になったらどうするんだろうか。
仮にも夏季大会を控えた体だ。
……考えれば考えるほどその事は頭を悩ませていった。



その他にも頭を悩ませる原因があった。


「蒼乃!話を…」


練習の合間休みや帰りの廊下で会うたびに、しつこく付きまとってくるやつがいる。
陸嵩、と言いたいところだが今回は違う。
橋本雪兎だ。
最初は軽くあしらっていたが、もうそれさえもしたくない。
話を聞く前に、もしくはばったりと遭遇した瞬間に背を向けて逃げる事が多くなった。
今日も部活帰りの廊下でばったりと遭遇。
例のごとく一目散に逃げようと背を向けて走り出すが、今日はなかなか諦めてくれない。


「蒼乃!」
「…………」
「少しでいいから、頼む」


毎回同じことを言われるが、それに返す言葉はない。
ただ無言と無心で遠回りをしてもいいから寮へと足を急かす。


「ゆっくりでいいから、俺と……、裕利と向き合ってくれないか?」


“裕利”、その名前に心臓が馬鹿みたいに早くなる。
聞きたくないのに、何処かでその名前を求めている。
気持ち悪い感覚が体中を占め始め、襲ってくる腹の異物感と不快感。


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