学園マーメイド
お願いだからその名前を呼ばないで(だけどその名前を欲してる)。
昔の事なんて思い出したくないの(だけど本当は忘れたくない)。
矛盾した気持ちが渦巻いて、まるでそこから私を抜け出させないようにしているみたいだ。
たった三文字の言葉は呪いの呪文だ。
こんなにも私自身をおかしくさせ、それをどうにかしようと口が開いてしまう。
「何度きても、何度言われても、何も話さない」
「……蒼乃」
走っている所為でお互い息が荒い。
「あたしは、今を生きる人間だって言った。だから過去なんて知らない」
過去があるから今の自分があるなんて、そんな安っぽい言葉使わない。
「あなたはあたしの過去の人。関わりを持ちたくない過去の人!」
語尾を強めて吐き捨て、今以上に足のスピードを速める。
すると四つあった足音が二つになり、雪兎が止まったのだと認識した。
だが安心してはいけない。
寮に帰るまで緊張を解かずにいなくては。
私は玄関を猛スピードで飛び出し、寮への道をそれはもう今までの中で一番速いスピードで駆け抜けていった。
寮に入り部屋についたときは汗だくで、背中にべっとりとワイシャツが張り付いていた。
へたりと床に腰をついて、少し言い過ぎただろうか、と考えて首を振った。
そんな事はない。
あれで十分だ、これ以上関わりを持たれてはこっちとしてもさすがに限界だ。
嫌がらせと雪兎、どちらも対処しようとするのは骨が折れる。
引っ張られるようにベッドへ、そして落ちるように目を瞑った。