学園マーメイド
体育館に来た目的を忘れ、ゆっくりと雪兎に近づく。
近づいたら近づいたで何を言っていいのか分からず、少し沈黙していると雪兎の方が口を開いた。
「マーメイドって知ってる?」
マーメイドと聞いてすぐにピンと来た陸嵩は満面の笑みを見せた。
「ああ、蒼乃ですね」
「…知ってんの?」
「え、あ…、まあ一応」
驚いた顔を見せた雪兎は苦笑いに似た陸嵩の顔を凝視する。
そして次にはふっと顔を緩めにやりと笑って見せた。
「へえ、そっか。…好きなんだ?」
雪兎の言葉に今度は陸嵩が驚いた顔をして、みるみるうちに顔を真っ赤にした。
その行為自体“好きだ”と言う事を肯定しているのに、陸嵩は必死に両手を前に出してブンブンと振った。
「や!その、………」
冗談のつもりで言った雪兎だったが、こうもピュアな反応を見せられるとからかうタイミングがつかめない。
それと同時に蒼乃に好意を寄せる人間を目の前にして、どう反応していいのかも分からなかった。
笑顔を崩さないままでいると、それに耐え切れなくなった陸嵩が口を開く。
「俺、体育教官室に用があって!それじゃ、ラビ先輩また今度!」
それはもう早口で捲くし立てると、一目散に体育教官室へとダッシュした。
「……さすがバンビ」
ぽろっと口から零れた言葉に苦笑して、溜息を一つ。
蒼乃を好きだと思ってくれる人間がいたことに安堵し、そしてこれからどう蒼乃に接していけばいいのか分からない思いが募る。
二つの思いが交差し複雑な心境でいる雪兎は再び大きな溜息を零した。
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