学園マーメイド


その夜、いつもの様にベッドに二人でうつ伏せに寝転んで他愛ない話をしていると、陸嵩が思い出したように言った。


「あ!あのさ、ラビ先輩と知り合いなの?」
「ラビ?」
「塚田雪兎先輩」


その名前に最初はピンと来ずにいたが、苗字を橋本に変えるだけでそれが誰なのかはっきりと分かる。


「なんでラビ?」
「あの人の跳躍力見たことある?もうすっげえの」


小さい子がヒーローに憧れる目と同じ目をして此方を見る。
私は初めて雪兎に会った日を思い出した。
確かに思った、あのジャンプ力は尋常ではないと。高い、と声を漏らしてしまうほど。
敢えて見たことがあると言わずに、そうなんだと素っ気無い返事を返す。


「うん。そんで名前にも兎って漢字使われてるし、ジャンプ力も高いし……、でラビ先輩」


この学園の生徒は人に名称をつけるのが好きらしい。
陸嵩の話では、マーメイド、バンビ、ラビの他にまだ名称された人がいるらしい。
そのひとくくりに自分がいると言うのも癪だが、返品不可だそうだ。


「んで?知り合いなの?」


その問いに間髪入れずに違う、と言い切ってしまうことも出来たはずだ。
だが言い切ることが出来なかった。
胸の奥につっかえるあの人の名前が、それをさせてくれなかった。
私は少し沈黙して口を開いた。


「さあ、知り合いなのかよく分からない」


こう言う時、陸嵩の瞳を見つめて言えない。
彼の目は真っ直ぐすぎて心の動揺を見透かされてしまうのではないかと怖い。


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