学園マーメイド
何、と言わないうちに彼は笑顔のまま告げた。


「好き!」


案の定、私の体は硬直し思考回路は停止。
それから寝るまでの暫くの間は必死に“好き”と言う意味を自分の中で問いただしていた。



結局、“好き”と言う感情の意味に答えはでないまま朝を迎えた。
だが今日の部活は体を骨休め、と言う名目でコーチが休みにしたのだ。
そう言われた所で勝手に自主練習をするが。
まあ、午後からする予定だから朝はゆっくり寝ていよう、そんな事を考えながらベッドで寝返りを打つと生暖かい温度を感じた。
瞳を開けると、壁が目に入り込んできて隣に寝ていた陸嵩はいない。
この温もりは陸嵩のものか。


「……そう言えば、夏季大会1週間後って言ってたな」


薄っすらと開いた口でぽつりと呟く。
陸嵩と親しくなってから陸嵩の大会の噂は良く耳にした。
すれ違う生徒から、教務室の先生から、そしてコーチからも。
もちろんどれも悪い噂ではなく評判のいい噂だ。


『バンビ君さ、5月の新人戦400 M優勝したし…、8月も400 Mかな?』
『中学の時は3000Mで優勝してたよね?もしかしたら8月は3000Mじゃない?』
『先生、穂波は凄いですね。あの志栄(しえい)学園蹴ってうちに入学してきて、こちらとしては儲けものですね』
『ええ。期待してるんですよ、穂波には』
『聞いたか?バンビ、風間先輩のタイム余裕で超えたらしいよ』
『げ、これであいつより速いやついねえじゃん』


様々な彼の噂は、この学校全体を活気立たせているように思えた。
彼の周りにはいつも人が集まっていて、男子ならふざけ合い笑い合い、女子なら気さくに楽しそうに。
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