学園マーメイド
そのメールに“がんばって。応援してるよ!”と絵文字も何にもない文章で送信した。
我ながら素っ気無い。
そう思いつつ携帯を閉じ、歩き出す。
が、その足は目の前の光景にピタリと静止した。
「近くのコンビニでいいって。おごってやるから」
「なに言ってんすか!世の中金で解決するから汚れてくんですよ」
「ぶっ、バンビに政治が分かるかよ」
「うるさいなあ。いいから寮で一緒にお昼食いましょう!寮に入っていない生徒も許可貰えば食べられますから」
「やだよ、面倒だし」
「簡単ですよ、署名すればすぐですよ。ほら、ラビ先輩!」
二人の少年がじゃれ合うようにして此方に歩いてきている。
それが知らない人間ならばこの足は止まらなかった。
陸嵩と雪兎だったからこそ、足は棒のように動かなくなり思考回路も止まる。
何をやっているんだ。
早く足を逆方向に向けて走り出さなければ。
心が悲鳴をあげる前に早く、そう急かすのに視線は彼らを捉えて離さなかった。
案の定、二人は目の前にいる私に気付き、陸嵩は笑顔になり私の名前を呼ぼうと口を開けたが、それより先に雪兎の声がそれを遮った。
「蒼乃!」
その声があり難いことに体の拘束を解いてくれた。
自由になった体は持っていた鞄を投げ出し、足を逆に向けて走り出した。
早く、早く、もっと早く。
あの声の届かない場所へ、あの名前の届かない場所へ。
後ろからは悲鳴に似た雪兎の声と、陸嵩の驚きを隠せない声が聞こえた。
だがそんな事、気にしていられない。
必死になって腕を振り、足を上げ走った。
廊下を駆け抜け、階段を駆け上がり、たどり着いたのはまたしても屋上。
今度は北校舎の屋上だ。
「は、…はぁ、……はっ」
太陽の熱がギラリと直射する。