学園マーメイド
拒絶なら、雪兎だって何度経験していた。
今日も確かにあれは拒絶だった。あなたなんていらない、必要ない、と言う鋭い眼光を此方に向けた蒼乃の顔が脳裏に焼きついて離れなかった。
伝えたい思いがたくさんあるのに、自分は手が出せない。
だがこの男なら?
蒼乃を好きだと言ってくれた人が、更に力になりたいと言ってきた。
雪兎だって同じだった。蒼乃を助けたい、だけど自分では力不足だけではなく、完全に拒絶されている。
これ以上彼女と向き合える方法が見つからなかった。
雪兎は意を決めて、口を開く。


「分かった。話すよ」


その言葉に陸嵩はぐっと心臓を押さえつけ、頷いた。


「蒼乃の兄の話は聞いた事があるか?」
「詳しくはないですけど、いると言う事だけは」
「そうか」


雪兎は言葉を吐き出して、瞳を閉じると間を置いて口を開く。


「蒼乃の兄、裕利は10年前死んだんだ」
「死……」
「蒼乃の目の前で、普通車に轢かれてな」


陸嵩ははっと口を押さえた。
テラスで蒼乃がおかしくなった情景が脳裏に映し出された。
あれは確か兄弟の話をした後の出来事だったはずだ。……それが意味するのを理解するのにそう時間は掛からなかった。
そんな陸嵩を横目に雪兎は小さく息を吐く。


「……あいつにとっては絶望的な光景だったと思う。いや、だったんだ。裕利はあいつ、蒼乃にとって絶対唯一の存在だった。それが目の前で死んでいったこと、それは蒼乃にとって死を意味すると同じぐらい」


早口で言い終わると小さく、今なら分かるよ、と付け加えた。


「俺と裕利と蒼乃は幼馴染でよく遊んでいた」


雪兎は思い出すような、懐かしむような目をしてみせた。
そしてその瞳の色はすぐに暗い色へと変化していく。
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