学園マーメイド
「裕利と蒼乃は本当の兄妹じゃないんだ。裕利の母親の姉の子供、それが蒼乃。だから従兄妹にあたるんだ、本当は」
「……蒼乃の母親と父親は?」
「あいつが産まれてすぐ交通事故で他界。引き取られたのが園田家。……だけどその園田家は蒼乃に冷たかったんだよ。父親は息子、裕利の事だけを可愛がっていて、母親はそんな父親に従うことしか出来ない意思の弱い人だったんだ。だから父親が蒼乃に冷たくあたっても母親は口を出すことをしなかった。どんなに蒼乃を愛そうとしても、父親がいる限りそれは許されないことだったんだ」
そこで話を区切ると深い息を吐いて、ソファーに深く座りなおす。
陸嵩は喉が急速に渇いていくのを感じて、ゴクリと音を鳴らして唾を飲み込んだ。
だが逆に心臓はびっくりするほどゆっくりと脈を打っている。
「そんな蒼乃を本当に“家族”としてみてくれたのが、裕利だった。父親の前であっても母親の前であっても裕利たけは蒼乃を大事な妹として見てくれたんだ。それは蒼乃にとって、唯一の救いだったはず。あいつの居場所は園田家にはなく、裕利という存在がいて初めて自分の存在があった。そう、俺は思ってる。少なくとも蒼乃にとって裕利は家族であり兄であり、心許せる場所だったんだ」
それが目の前で消えた、そう言って再び口を閉じる。
映し出される裕利と蒼乃の光景に、雪兎は胸の奥を掴まれるのを感じた。
でもこんな苦しみは蒼乃に比べたら比ではない。
裕利が蒼乃の目の前で引かれた時の映像がモノクロになっても鮮明に思い出せた。