学園マーメイド

映し出される裕利と蒼乃の光景に、雪兎は胸の奥を掴まれるのを感じた。
でもこんな苦しみは蒼乃に比べたら比ではない。
裕利が蒼乃の目の前で引かれた時の映像がモノクロになっても鮮明に思い出せた。



あの時、いつもの様に3人で遊ぶ約束をして外に出た。
待ち合わせは近所の公園。だけどそこには2人の姿はなかった。
探しに行こうと公園を出ると、目の前をすごいスピードの車が飛び出し角を曲がっていく。
危ないなと思いつつ道路を渡った瞬間、激しい音と鈍い何かにぶつかる音がした。
そして、


『あ、……兄さん!お兄ちゃん!!』


蒼乃の悲鳴だった。
急いでその角を曲がると、そこには目を覆いたくなるような光景。
道路に広がる新鮮な赤色がまず目に飛び込んできた。


『嘘、…だろ』


車の男は気が動転しながらも電話をかけていて、そしてその車から3メートル離れた所に裕利の姿があった。
蒼乃の体が裕利の体を抱きかかえている。裕利は赤く、蒼乃もその血で赤く。


『嘘だろ、なあ!どうしてだよ!なんで、なんでこんな!』


叫び声をあげると雪兎は走り出し、二人の傍に近寄った。
赤赤赤赤赤赤赤、瞳に映った色は吐き気を催し、匂いは気を動転させた。




雪兎はあの映像を思い出し、身震いすると小刻みに息を吸う。


「……そしてあの時、裕利が車に轢かれた時。俺は言っては行けない事を言った」


そしてゆっくりと瞳を閉じると再びあの映像を映し出させる。



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