学園マーメイド
血の匂いは頭の中心に到達し、思考回路が狂い始めた。
だからと言って口にしてはいけない言葉を、雪兎は口にしたのだ。
『なんで…!蒼乃、……っ!お前が、……お前が裕利を!傍にいながらなんで裕利を助けてやんないんだよ!お前が、お前が裕利を殺したんだ!!』
その言葉に裕利を抱いている蒼乃の体がびくりと揺れ、瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
同様に雪兎の瞳からも大量の涙が零れ落ち、小さな嗚咽が漏れる。
『……ごめんなさい』
『誰か、…う、…誰かぁ!……やだよ、なあ、頼むよ』
『…っごめん、なさい』
救急車が到着したときには隊員の人はその光景に驚いたと言う。
幼い子供が、幼い少女が血を恐れる事無く、轢かれた子供を抱きしめていたからだ。
そしてその少女の瞳には光が宿っていないのにも関わらず、無表情で涙を零していたと言う。
口からは絶えず謝罪の言葉が繰り返され、救急車に乗り込むその瞬間まで意識を保っていたが、病院についたころには意識を失っていた。
少年、裕利は轢かれた時点で即死。それに加え出血多量と重なり死は確実だった。
「……蒼乃が兄さんを殺した、本気で言ったんですか?」
「あの時の俺は、相当気が狂ってたんだ。幼くて考えが幼稚だったから、蒼乃の気持ちを考えず言ったんだ」
“お前が裕利を殺した”、その言葉の重みがズシリと心に圧し掛かる。
今だから分かる。あの言葉がどれだけ蒼乃を傷つけたのか。
生きる気力を奪わせたのか。言葉は凶器、そう言うようにあの言葉は蒼乃を深く深く抉り、再起不能にならせるほどの傷を付けた。
それがどんなに酷なことだったのか。
幼かったから、小さい子供の過ちだったから、と許されるものではない。