学園マーメイド
雪兎の手は震え始め、それは次第に声に連鎖していった。
「俺なんかより、……あいつのほうが何倍も何十倍も苦しかったはずなんだよ」
震える声が、彼もまた10年で傷ついてきたのだと言う事を物語らせた。
「俺なんかより、あいつのほうが裕利を慕い、裕利を必要としてたんだよ」
語尾がぐっと詰まり、雪兎の頬に涙が伝った。
雪兎は両手を解くと顔面を解いたそれで覆った。
自分で情けないと思うくらい涙が止まらず、同様に手の震え、否体の震えが止まらなかった。
蒼乃はきっと責めたはずだ、“自分が兄を殺した”と。
“一緒にいながらも救ってやれなかったんだ”と。
「……ラビ、先輩」
陸嵩の肩が震えていた。
瞳には零れ落ちそうなくらいの涙が溜まっていたが、それをなんとか持ちこたえている。
ぐっとズボンを握り締め、口に力を入れる。
まだ、まだ終わってない。
「教えてください。……それから蒼乃がどうなったのか」
自分で言った言葉が辛く感じ、耐え切れず瞬きをした瞳から涙が零れた。
雪兎はその言葉にビクリと肩を揺らすと、顔を手で覆ったまま口を開く。
「それから俺は蒼乃と顔を合わせられなくなった。……子供でもザイアクカンってのが生まれたんだ。だからこそ会えなかった。会いたくなかった。そんで事件から数週間日後、タイミングよく親の転勤で、俺はその町を離れたんだ」
「それじゃあ、蒼乃は」
「ああ。一人ぼっちになったんだよ、また」
そこまで言うと雪兎は喉を詰まらせて涙を零した。
談話室の淡い色の絨毯に吸い込まれ、しみを作る。
裕利がいなくなった日、あの日から蒼乃を支えてやれるのは雪兎しかいなかった。
それが分かったのも蒼乃と離れて時間が経ってからだった。
「母親から聞いたんだ。それから蒼乃一切笑わなくなったって。近所では暗い子だって評判になってたらしい、学校でも友達はいなかったって」
それを聞いても、自分にはもう関係のないことなんだと言い聞かせて生きてきた。