学園マーメイド
それが間違いだと気付いた時にはもう遅かった。
遅すぎて、何もかも遅すぎて。自分を酷く恨んだ。
「たぶん、園田家の対応も酷かったと思う。特に親父に酷い事を言われたと思う。……俺と同じようなこと、絶対言われたんだ」
「…………誰も頼ろうとしない、誰も必要としない」
陸嵩はぽつりと呟いた。
いつもどこか一定の距離を保っているように思えた蒼乃。
それは意識的なものではなく、無意識からきているものだったのだ。
誰も頼る人がいなかった。その頼る人も目の前で消え、彼女は一人で生きていくしかなった。
人の助けを必要としても誰一人手を差し伸べてくれる人間がいなかった。
そう言う環境の中で、一人ぼっちで……、彼女は生きてきたんだ。
酷く呼吸が苦しくなった。
言葉では言い表せない感情が体中を巡り、心臓を収縮させた。
「痛い…、痛いよ。こんなの背負って生きてきたなんて……、痛いよ。蒼乃」
聞こえないほど小さな声でそう呟くと、更に心臓が圧迫される気がして、陸嵩は少し身を屈めた。
「それから蒼乃どう立ち直ったのか、俺には分からない。スポーツ雑誌に取り上げられたのを偶然見て、あいつが今も水泳を続けている事知った」
凛とした表情の蒼乃が雑誌に載っているのを見たとき、死ぬほど後悔した。
こんな表情を“裕利”は望んだわけじゃない、そう思ったからだった。
「……俺が知ってるのは、……ここまで」
雪兎はティーシャツの袖で目元を乱暴に擦ると鼻をすすり、視線を下に落とした。
そして長い息を吐くと、手で顔を擦り背伸びをした。
「俺の家もそれから色々あって、この学校に入って……。そして有名になったマーメイドが蒼乃だって知った時は死ぬほど吃驚したし、同じように苦しくて嬉しかった」
住所を知っていても尋ねることができない、尋ねたところで何を言ったらいいのか分からない。何より蒼乃と裕利に見せる顔がなかった。
だからこの学校に蒼乃がいると分かったとき、これは神様が与えてくれた償いのチャンスだと思った。
でもそんな気持ちとは裏腹に、行動に移ることができず、ただ影で蒼乃がここにいるんだと実感するしかなかった。