学園マーメイド
「……大丈夫。ちょっと気持ち悪いかな」
「吐く?」
「……吐かないよ」
大げさだな、と顔を緩めるとそれに安心したのか陸嵩から安堵の息が漏れた。
起こした体を摩ってみると少し熱っぽい。
確かに汗をかいたし、風呂を行くのもいいが今はそう言う気分ではない。
顔でも洗おうか、そう考えてベッドから抜け出そうとすると慌てて陸嵩がそれを手伝ってくれる。
自分が老人のようになった気分だ。
大丈夫だと言っても彼は、そんなことない、と言って私を気にかけてくれるんだろう。
「ありがとう」
ベッドから床に着地
しお礼を言うと、陸嵩は少し気まずそうな顔をした。
だが突っ込む要素がなかったのでそれをスルーすると、ノックの音と同時にドアが開いた。
「―――…っ!」
入ってきた人物を見た瞬間、一気にフラッシュバックする記憶たち。
体中に力がはいり、強張る顔。
ああ、情けない。
それと同時に完全に開ききった心の扉が、風に吹かれてギィギィと音を立てた。
悲鳴に似たその音はさっき水で潤したはずの喉をカラカラに乾燥させる。
何故、彼が此処にいるのか。
ここでは逃げ場がない。
「蒼乃」
「…………」
雪兎だ、記憶の扉を無理矢理に開かせた人。
「蒼乃、俺は……」
「……どうして」
予想外の登場に心と体が別々になったようだ。