学園マーメイド
その声の主に体を向け、ゆっくりと視線を合わせる。
合わせると同時に、どっと背中から汗が流れ出し、僅かながらに手と足が震え始めた。
「蒼乃……、この10年間。ずっと伝えたかったんだ」
雪兎の瞳が真っ直ぐ此方を捕らえる。
あの頃のような純粋な瞳が此方を見て、小さく震えている。
「支えてやれなくて、ごめん」
その言葉の後に、落ちた涙と一礼。
雪兎が私に向かって深々と頭を下げている。
それも寒さに震える子犬のように震えながら。
「……っ、守ってやれなくて……、ごめんっ」
―――『逃げてるんだよ、結局。過去からもラビ先輩からも、……そしてお兄さんからも』
逃げていたんだ、私は。
苦しんで苦しんで、どうしようもなかったこの人から逃げていたんだ。
この人だけじゃない。
彼が言った通り、“受け止めて消化した”なんて言っておきながら、何も受け止めていなかった。
消化できるどころか、消化できないまま扉の奥深くに閉じ込めて鍵をかけた。
見ることのないように、思い出すことの無いように、深い深い真っ暗な場所まで追いやって目を瞑っていた。
過去からも眼を背け、そしてその過去全体を示す“兄”からも眼を背けていた。
受け入れたなんて真っ赤な嘘だ。
陸嵩の言葉通り、何からも逃げていたんだ。