学園マーメイド
ミルクココアを口に入れると嬉しそうな顔で寄って来る光が目に映った。
「会いたかったよ、蒼乃」
「光さん気持ち悪いです」
冗談っぽく言うと、光は可愛くないわね、と言って笑った。
そして先ほどまで男が座っていた椅子に腰をかけるとずい、と顔を前に出してきた。
「ねね!今の人誰?」
「え、…えと」
「蒼乃が他人と話すなんて珍しいからさ、誰だったの?」
誰だったの、と聞かれて答えられない。
何故なら…、
「名前聞いてない…」
名前おろか学年も聞いてないからだ。
私の発言に言葉にしないでも分かる“あんたアホね”と言いたい光の顔。
確かに、勉強はできない方だしアホだと言われてもしょうがないと思っていたがここまで自分が抜けているとは正直残念に思う。
「はあ、…また会えるといいね。蒼乃に話しかける人、かあ」
「うん」
まるで自分の事の様に思ってくれる光に、実は今日の部活見に来るんだって、と言えたのに口元まで来たその言葉は喉を通って腹に落ちた。
時間は刻々と過ぎて、約束の4時。
ドキドキしながらプールサイドで待っている、と言うのは全くの嘘で。
約束と言うものを水に入った途端すっかり頭から抜けて落ちてしまっていた様で、授業が終わった3時にはプールサイドに、それからずっと泳ぎ続けて、は、と気がつき顔を上げると5時を差す時計とご対面した。
そして辺りをグルリ、と見回すと青いベンチに腰をかけてこちらを見る男の姿。
あの人だ。