学園マーメイド


「雪ちゃん、逃げてた。あたし受け止めきれなかった。……受け止めるなんて無理だった」
「……うん」
「だから、放棄しちゃったんだ。ごめんね、雪ちゃんからも兄さんからも……、逃げ回ってた」


兄が“死んだ”と言う事実を認めながら、認められなかった。何より自分が認めたくなかった、認めるのが怖かった。
あの人は私の唯一の“家族”だったから。
私の唯一の“居場所”だったから。
耳元で雪兎の鼻をすする音が聞こえる。


「逃げ回ることで何かが解決したと思い込んで、それが雪ちゃんを傷つけてたんだ。あたしは昔から何にも分かってない」
「…違う、そんなことは」
「ううん。そんなことあるよ。あたしは貴方を傷つけた」


いっぱい苦しんだのでしょう?
雪兎のその涙は偽物なんかじゃない、苦しんで耐え抜いた人の涙だった。
雪兎の腕に力がはいり、力強く抱き寄せられる。
苦しいと思うぐらい強く力を入れられ、少し咽るかと思った。


「お前が、裕利を殺したんじゃない」


その言葉にビクリ、と抱きしめられている体が揺れる。


「あれは事故だった。誰も悪くない、あれは運命だった」
「…………」
「蒼乃、俺と裕利から伝えたいんだ」


雪兎の背中に回した手が微かに震え始める。
怖くて、何を言われるのか怖くて。
でももう逃げてはいけないんだと、頬の痛みが教えてくれる。


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