愛という名の世界
第12話
第12話(side story 10)
夜、弥が独り暮らししているコーポへ向かうと勇利はチャイムを押す。付き合いを開始したその日にも招かれはしたが、コーポの前までで我慢し帰宅する。大事にしたい相手というのもあるが、告白し合ったその日に部屋で二人っきりという状態は理性を保てる自信もなかった。ただし、現在は固い決意を持ってドアの前に立っており、勇利の中でもある程度の覚悟を持って臨んでいた。明るい返事とともにドアが開くと、満面の笑みを湛えた弥が出迎える。
「空条君、いらっしゃ……」
しかし、勇利の顔を見た瞬間、笑みは消え驚きの表情に激変する。
「ど、どうしたの、その顔!?」
勇利の顔は真っ赤に腫れており、両頬とも膨れ引っかき傷も多数見られる。
「と、とりあえず手当てするから入って!」
「うん……」
素直に従うとベッドに座り大人しく手当てを受ける。傷薬を塗られ痛みより声が出そうになるが、なんとか我慢をし無事手当てを終える。薬箱を棚に戻すと当然ながら弥はこうなった理由を問いただす。
「で、何があったの?」
「ん、全部関係切ってきた」
「え?」
「いわゆる都合のいい女」
勇利からなされる驚きの告白に、弥の表情も真剣になる。
「園山先輩から聞いたんだ。今回の写真事件の真相。結局、俺の身から出た錆びだった。俺の最低な行いが結果として先生を追い詰めたんだ」
「そんなことないわ。昨日も言ったけど、私は空条君とこういう関係になれて幸せだもの。ホントあの事件には感謝してる」
「それは分かるけど、俺の起こした行為で先生が傷つくのはもう耐えられないし、気を遣われて守られるのもカッコ悪い。もう二度とこんなことが無いように、今まで関係を持った女性全員に会ってケジメをつけたきたんだ」
「つまり、往復ビンタの嵐を正面から受けてきた訳ね」
「往復爪引っかきとか蹴りもあったよ」
苦笑いする勇利に溜め息を吐く。
「そう、でも、そういう過程も含めて私たちは知り合って今こうなってるんだから、そんなに自分を責めなくていいのよ?」
「分かったよ。でも、これからは俺が先生を守るって約束したからさ。その意味でもこの往復ビンタの嵐は必要なことだったって思ってるよ」
「真面目ね。でも、貴方のそういうところ、好きよ」
弥は正面から抱きつくと目を閉じて唇を重ねる。経験豊富な勇利でも弥とのキスは緊張しぎこちなくなる。焦りを隠しながら弥を抱きしめ、そのままベッドに優しく押し倒す。弥は目を開き一瞬戸惑いの顔を見せるが、敢えてそのまま受け入れる。抵抗なく受け入れてくれることを確信すると、勇利はキスを止めて弥を見つめ囁くように言う。
「弥、愛してるよ」
「私も勇利を愛してるわ」
微笑み合うと二人は再び濃厚なキスをし、身体を重ねた――――
――一カ月後、藤巻奈々絵の名前が連日ワイドショーを賑わしている。交際していた男性を巡る怨恨殺人として取り上げられ、同時に被害者である君島弥の名前と写真もテレビ画面を踊っていた。度重なる警察での聴取を終える頃、勇利は学校を辞める。未成年ということで報道の目に晒されることもなかったが、とても日常の世界に戻れるとも思えない。
家を出て年齢を偽り、寮つきのホストクラブに就くと、弥とのことを忘れるかのよう仕事に没頭する。女を騙すという本来の道に戻ることで、短くも幸せだった過去を塗り潰そうとしていた。業界のルールである特定の彼女を作らないというものも勇利には合っており、容赦のない仕事っぷりに周りの評価はうなぎ上りとなっていた。
夜、弥が独り暮らししているコーポへ向かうと勇利はチャイムを押す。付き合いを開始したその日にも招かれはしたが、コーポの前までで我慢し帰宅する。大事にしたい相手というのもあるが、告白し合ったその日に部屋で二人っきりという状態は理性を保てる自信もなかった。ただし、現在は固い決意を持ってドアの前に立っており、勇利の中でもある程度の覚悟を持って臨んでいた。明るい返事とともにドアが開くと、満面の笑みを湛えた弥が出迎える。
「空条君、いらっしゃ……」
しかし、勇利の顔を見た瞬間、笑みは消え驚きの表情に激変する。
「ど、どうしたの、その顔!?」
勇利の顔は真っ赤に腫れており、両頬とも膨れ引っかき傷も多数見られる。
「と、とりあえず手当てするから入って!」
「うん……」
素直に従うとベッドに座り大人しく手当てを受ける。傷薬を塗られ痛みより声が出そうになるが、なんとか我慢をし無事手当てを終える。薬箱を棚に戻すと当然ながら弥はこうなった理由を問いただす。
「で、何があったの?」
「ん、全部関係切ってきた」
「え?」
「いわゆる都合のいい女」
勇利からなされる驚きの告白に、弥の表情も真剣になる。
「園山先輩から聞いたんだ。今回の写真事件の真相。結局、俺の身から出た錆びだった。俺の最低な行いが結果として先生を追い詰めたんだ」
「そんなことないわ。昨日も言ったけど、私は空条君とこういう関係になれて幸せだもの。ホントあの事件には感謝してる」
「それは分かるけど、俺の起こした行為で先生が傷つくのはもう耐えられないし、気を遣われて守られるのもカッコ悪い。もう二度とこんなことが無いように、今まで関係を持った女性全員に会ってケジメをつけたきたんだ」
「つまり、往復ビンタの嵐を正面から受けてきた訳ね」
「往復爪引っかきとか蹴りもあったよ」
苦笑いする勇利に溜め息を吐く。
「そう、でも、そういう過程も含めて私たちは知り合って今こうなってるんだから、そんなに自分を責めなくていいのよ?」
「分かったよ。でも、これからは俺が先生を守るって約束したからさ。その意味でもこの往復ビンタの嵐は必要なことだったって思ってるよ」
「真面目ね。でも、貴方のそういうところ、好きよ」
弥は正面から抱きつくと目を閉じて唇を重ねる。経験豊富な勇利でも弥とのキスは緊張しぎこちなくなる。焦りを隠しながら弥を抱きしめ、そのままベッドに優しく押し倒す。弥は目を開き一瞬戸惑いの顔を見せるが、敢えてそのまま受け入れる。抵抗なく受け入れてくれることを確信すると、勇利はキスを止めて弥を見つめ囁くように言う。
「弥、愛してるよ」
「私も勇利を愛してるわ」
微笑み合うと二人は再び濃厚なキスをし、身体を重ねた――――
――一カ月後、藤巻奈々絵の名前が連日ワイドショーを賑わしている。交際していた男性を巡る怨恨殺人として取り上げられ、同時に被害者である君島弥の名前と写真もテレビ画面を踊っていた。度重なる警察での聴取を終える頃、勇利は学校を辞める。未成年ということで報道の目に晒されることもなかったが、とても日常の世界に戻れるとも思えない。
家を出て年齢を偽り、寮つきのホストクラブに就くと、弥とのことを忘れるかのよう仕事に没頭する。女を騙すという本来の道に戻ることで、短くも幸せだった過去を塗り潰そうとしていた。業界のルールである特定の彼女を作らないというものも勇利には合っており、容赦のない仕事っぷりに周りの評価はうなぎ上りとなっていた。