不器用なシンデレラ
「さあ、ショータイムの始まりだ」

 本田さんがそっと私の背中を押す。

 ゆっくりピアノまで歩く、みんな食事をしていて私を見る人はいない。

 椅子に座ってピアノの上に手を置く。

 軽く深呼吸をして鍵盤の上に置いた手を動かす。

 ショパンの『別れの曲』。

 そう私の思い出の曲。

 弾き始めると、ちらほら視線を感じるようになった。

 集中、集中。

 私の思いを込めて弾こう。 

 セピア色の情景が浮かんでくる哀しい曲。

 演奏が終わると、食事をしていたお客さんが拍手してくれた。

 気持ちいい。

 ライトもちょっと暗めでお客さんには顔もあまり見えないしちょうどいい。

 なら、このまま次の曲を弾こう。
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