不器用なシンデレラ
 アンコールの曲どうする?

 こんな場所で聞かせるような曲。

 あっ、そう言えば最近有名なピアニストがイギリスであの曲弾いてなかったっけ?

「リストのラ・カンパネラ」

 自分でそう呟くと、もう自然に手は動いていた。

 私は曲は昔から耳で覚えた。

 だから、楽譜はおさらいするだけで、初めての曲ほど父のCDの演奏を思い出しながら目を閉じて弾く。

 この方が集中して弾ける。

 幻想的な鐘の音のような高音が続く曲。

 跳躍に失敗すれば悲惨だけど、イメージ通りやればいい。

 私の好きな父のピアノみたいに。

 演奏が終わると、一瞬その場が静まり返り、その後誰かが拍手し出すと他のお客さんが総立ちで拍手してくれた。

 身体中鳥肌が立っている。

 不思議な感覚。

 父のいた世界ってもっと規模は大きいけど、こういう世界だったんだ。
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