不器用なシンデレラ
 ずっと憧れの存在だった父に、一歩だけ近づけた気がした。

 ピアノから離れて本田さんのところへ戻る。

「いい演奏だった。こんな演奏されたら退職願受理しないわけにはいかないな。ピアニストにはならないの?」

「大きな舞台とか向いてないんです。それよりも子供たちの顔見ながらキラキラ星とか弾いてる方が私には合ってます」

「そっか。ちょっと残念な気もするけど、山下さんが選んだ道だもんね。送ってくけど、どこに帰るの?」

「・・・・」

 理人くんのとこにはもう帰れない。

 花屋の2階も理人くん待ち構えてそうだし。

 ビジネスホテルか・・・でもお金節約したいしネットカフェで時間つぶす?

 考え込んでいると、私のポケットのスマホのバイブが鳴った。

 チラリとスマホを見ると、理人くんからの着信。

 私が出ないでいると、横から本田さんの手が伸びてきて勝手に通話ボタンを押した。
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