不器用なシンデレラ
「もう我慢しなくていい。吐いて」

 優しく声をかけて背中を撫でてやると、花音も限界だったのかジャケットの中に吐いた。

 まだ苦しいようだが、吐いて少し落ち着いたようだ。

「・・・ごめんなさい」

 花音がぐったりした表情で俺に謝る。

 多分、スーツのジャケットを汚してしまった事を気にしているのだろう。

 自分は具合が悪いのに・・・・・。

 気にするなという意味を込めて、花音の頭の上に手を置く。

 幼稚園の頃はよくこうして彼女を慰めた。

「お店の人に水もらってくる。ここで待ってて」

 花音から離れてジャケットを丸めると、近くにあったゴミ箱に捨てた。

 そして、小走りで厨房に行き、お水とおしぼりをもらう。

 あの様子では1人では帰れない。

 俺が送るしかないか。

 花音の元に戻ると、彼女は気分が悪いのか目を閉じていた。
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