不器用なシンデレラ
「ふふふ、ありがとう。花音ちゃん、きっとあなたが迎えに来てくれて喜ぶわ」 

 先生が柔らかな笑みを浮かべる。

「だと良いんですが」 

 俺も微笑むと、先生は花音のいる教室の前で俺の肩をそっと押した。

 静かに教室に入ると、花音は一心不乱にピアノを弾いていた。

 俺の気配にも気づかない。

 花音にしては酷い演奏だった。

 彼女が弾いていたのはショパンの名曲『別れの曲』だが、情景が思い浮かぶようなノスタルジックなものではなく、ただただ感情を吐き出すために弾いている。

 あれだけ俺が罵ったのだから当然だろう。

 壁にもたれながら聞いていたが、この辺が限界かと思い正直な感想を口にする。

「下手くそ」

 俺がそう言うと、花音の背中がびくんと震え彼女は手を止めた。
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