不器用なシンデレラ
「なら、私のピアノを聞いてみなさいよ。私が花音に劣るなんてあり得ないわ」

「いいだろう。じゃあ、そこにあるピアノで弾けよ。曲はショパンの『別れの曲』。お前には簡単過ぎるか?」

 詩音を挑発し、俺は数メートル先にある白いピアノを指差す。

 すると、詩音は席を立ち、カツカツとヒールの音をさせながらピアノに向かう。

 この歩き方1つ取っても 彼女の性格が良くわかる。

 高飛車、高慢、我が儘。

 その詩音のピアノは、はっきり言って酷かった。

 まだ花音が幼稚園で泣きながら弾いてた演奏の方が聴ける。

 押し付けがましい耳障りな演奏。

 周りの客も誰1人として聞き入っている者はいない。

 これじゃあ、コンクールで入賞なんて無理だろう。

「やはり聴くだけ無駄だったな」

 俺が冷ややかに呟くと、近くにいた花音の母親が俺を睨んだ。
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