不器用なシンデレラ
「・・・・」

 詩音は鬼のような形相ですれ違う人とぶつかりながら慌ただしくラウンジを出て行く。

「無様だな」

 花音がこの事を知ったら悲しむだろう。

 彼女に教える気はない。

 知る必要はない。

 もう会うことはないだろう。

 あんな妹ならいない方がマシだ。

 自分の周りが静かになると、注文したコーヒーがやっときた。

 俺達の言い争いに巻き込まれたくなくて店員も近づけなかったらしい。

 コーヒーを飲みながらスマホを見ていると、本田さんとの約束の時間になった。

 ラウンジを出てレストランに向かうと、ドアの隙間からレストランを見ている挙動不審の女がいた。
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