不器用なシンデレラ
「ありがとうございます」

 3人で乾杯してシャンパンを一口飲むと、俺はグラスを置いて胸ポケットから例の婚姻届を出して花音の前に広げた。

 彼女も婚姻届自体は見るのは初めてじゃないので最初は割りと落ち着いた様子で眺めていたが、証人欄を見て表情を変えた。

「うそ・・・」

 花音が右手で口を押さえる。

 まさか自分の母親が婚姻届の証人欄に署名してくれるとは思っていなかったのだろう。

 花音は、うっすらと目に涙を浮かべ呟いた。

「・・・お母さん。ありがとう」

「花音も妻の欄に署名してくれる?」

 俺が声をかけて花音にペンを手渡すと、彼女は静かに頷いた。

 震える右手を左手で押さえながら、花音は一字一字ゆっくり記入していく。
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