不器用なシンデレラ
 彼女の緊張が伝わってきた。

 この書類、書き損じは許されない。

 たった1枚しかない花音の免罪符。

 無事に書き上げてこそ意味がある。

 記入し終えると、花音は心から嬉しそうに微笑んだ。

「理人くん、ありがとう」

 幸せそうな花音の笑顔を見て、これであの親子から解放されたって思った。

 これには親父に感謝しなければいけない。

「花音さえ良ければ、明日一回うちに戻ってから役所に提出しよう」

「うん」

「親父とお袋の事は、もうお父さん、お母さんって呼べよ。あの人達、お前にそう呼ばれるのを密かに楽しみにしてるから」

「うん。だけど・・恥ずかしいな」

「式は雅代さんの喪が開けたら、このレストランで挙げないか?」
< 282 / 358 >

この作品をシェア

pagetop