不器用なシンデレラ
 うそ・・・・。

 どうしてここにいるの?

 振り返ると理人くんがいた。

 自分の目に映るものが信じられなくて何度も瞬きした。

「感情ダダ漏れでテンポもムチャクチャ。まだ、俺が弾いた方がマシ」

 そう言って理人くんは持っていたビジネスバックを床に置くと、私の方に近づいて来て隣に座った。

 唖然とする私に構わず、理人くんは『別れの曲』を弾き始めた。

 彼も小さい時からピアノを習っていて、幼稚園の頃はこうして2人並んで座ってよくピアノを弾いた。

 父と同じように優しい音。

 彼が奏でる音の中に、父が見えるような気がした。

 理人くんの横顔もとても穏やかだ。

 いつも会社で見ている冷淡な彼とは違う。

 何がどうなってるの?

 訳がわからない。

「そんな悲しそうな顔でピアノを弾くな。それじゃ音楽じゃなくてただの苦だ。お前の親父さんはそんな音楽教えなかったろ?」
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