不器用なシンデレラ
 これ以上、この電話を聞いてはいけない。

 受話器を置きたい気持ちでいっぱいだった。

 お願い、この先は言わないで!

『交通事故に遭われて、うちに運ばれて来たのですが内臓の損傷が激しくてまだオペ中です。すぐに病院に来てくれませんか?』

 私の手から受話器がガシャンと落ちる。

 まだ、電話の相手は何か言っているようだが、もう私の耳には入らない。

「・・・おばあちゃんが・・事故」

 目の前が真っ黒になる。

 底なし沼に落ちたかのように、深い深いところへ落ちていく。

 すがりつくものなんて何もない。

 もう・・・誰にもすがれない。

「山下さん、どうしたの?顔、真っ青よ」

 ちょうど一服から戻ってきた長谷部さんが、私の顔を見て驚く。
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